『JOKER』Ⅳ

試合が終わり、もう用が済んだとばかりにラケットをしまう。

そして、ここにいてはあまりにうるさいと思い、続けて片付けをぱっぱとすましていく。

「ねぇ、君。ねぇって、聞こえてるんでしょ?」

誰かに話をかけているみたいだ。

しかし、聞いたことのない声なので自分には関係ないなと思い、コートを去ろうとするが、声の主に腕を掴まれ止められる。

「ねぇ、無視とはいい度胸だね。」

「…?俺にようだったんすっか?」

「もしかしておちび、自分が話しかけられてたって気づいてなかったのかにゃ?!」

リョーマは猫言葉を話す、男の言葉にぴくりと反応する。

「…おちび?」

「そう、ちっちゃくて可愛いからおちび。君にぴったりだにゃ!」

「俺には、越前 リョーマっていう名前があるんですけど…いきなり初対面に失礼じゃないですか。」

「すまない、越前君。俺は男子硬式テニス部の副部長を務めている大石だ。英二が失礼を言った。」

「…別に。」

ようやく話が落ち着いて、周りをよく見てみると見知った人がいて驚いた。

「…手塚…さん?」

レギュラーメンバーもリョーマの反応に少し驚く。

「越前君、もしかして手塚と知り合い?」

「一応。さっき、木陰で知り合ったんっス。」

「ああ。木陰で何をしているのかと思って話しかけただけだ。まさか、不二たちが言っていた子だとは思わなかったがな。」

「もしかして、手塚さんもテニス部なんっすか?」

「ああ。一応部長を務めている。」

「へぇ…。あっ!!左利きのTeduka Kunimitu?」

「!!何で知ってるんだ?!」

リョーマは少し興奮したように、頬を少し赤くして言う。

「俺、アメリカにいたんっすけど、そこで日本に来る際に親父に中学生のテニスの試合のDVDを見せられたんっすよ。で、そこに映ってたのがTeduka Kunimituだったんっス。あんまり画像が良くなくて、顔がわからなかったっすけど、硬式テニス部の部長だって言ってたんで…。」

「そうだったのか…。」

「俺、ずっと会いたかった。会って、試合してみたいと思ってたんですけど…練習見に行った時に上手い人が全然いなくて、それに新入生をいびってたから、期待はずれだなって思って…。そういえば、ここにいる人皆、テニス部なんっすよねぇ?でも、俺が見に行ったときいなかった気がする…。」

「俺たちが遠征に行ってた確率100%だな。」

「もしかしてお前、新学期の初めの日に来た奴か?!」

思い出したといわんばかりに、桃城が声を上げる。

それに反応して、リョーマも見覚えがあると思いだす。

「あっ、唯一まともだった人!でも、足治ったんっすか?」

「「「「「「「!!!」」」」」」」

「すごい洞察力だ。いいデータになる。」

「気づいてたのか?!」

「はい。惜しいなぁと思いました。」

「桃、僕達そんなこと聞いてないんだけど?」

不二が黒い笑みを浮かべながら言う。

「だって、入部しないみたいだったから、特に言わなくてもいいかなって思ったんっすよ。」

「けっ、あほが。」

ボソッと海堂がつぶやく。

桃城はそれに即座に反応して、つけ見かかろうとする。

「なんだと、蝮!!」

「あぁ?やんのか?」

「2人ともそれぐらいにしときなよ。」

「でも、隆さん。こいつが先に喧嘩を売ってきたんっすよ。」

河村が止めようよするが、止まらない。

しかし、鶴の一声が2人にかかる。

「桃城、海堂、グラウンド10周。」

「「はい!!」」

2人は手塚の声に急いで、駆けて行った。

「あの、もういいっすか?俺、喉乾いたんでジュース買いに行きたいんですけど。」

そう言って、リョーマはこの場を去ろうとする。

「待って、ねぇテニス部に入らない?」

「俺達、全国を目指してるんだ。」

「一緒に闘っていかないか?」

リョーマの実力は本物だった。

たとえ、テニスにあんまり力を入れたことがない相手と対戦していたの見たって、一目瞭然だ。

フォームも基本に忠実で、基礎がきちんとできていた。

だからこそ、レギュラーメンバーは部に誘ったのだ。

きっと何かを変えてくれるだろうという、確信のない何かを持って…。

 

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