「お前は昌浩じゃない…。」
聞きたくない…。
「昌浩じゃない者は必要ない。」
やめて…。
「お前なんか消えてしまえばいい。」
お願いだから…もうやめて…。
どんなに拒絶しても聞こえてくる声。
それは聞きなれた声ばかりだった。
闇の中で独りぼっちな俺に、皆がさらに追い打ちをかけてくる。
痛い…。
痛いよぉ…。
…昌紀もこんな想いをしてきたの?
急に意識が浮上する。
今までのは全て夢だったみたいだ。
それを知って、自分でも気付かないうちにほっと息をつく。
知らないまま、体が緊張していたみたいだ。
汗をべったりとかき、髪が肌にくっついていた。
コン、コン。
いきなりの音にビクッと震える。
さっきの夢のせいか、体を無意識のうちに身構えてしまう。
「浩紀、ご飯だって。母さんが呼んでる。皆待ってるから、早く来なよ。」
「…うん。ありがと。すぐに行くよ。」
「…大丈夫?」
一瞬、昌紀に何を言われたかがわからなかった。
「な、何が?」
「疲れた声してるから…。」
「別に、昼寝してたからじゃないの?」
「ならいいよ。でも、何かあったらすぐに言えよ。」
「わかってるよ。」
言い終わると、気がすんだのか扉から離れていく音がする。
「ふぅ…。やっぱ、隠し事できないなぁ…。」
きっと昌紀は気付いているだろう。
俺がおかしかったことに。
でも、気付かないふりをしてくれたんだ。
浩紀は昌紀の優しさに感謝した。
あんな夢を見たなんて…昌紀には言いたくなかったから…。
NEXT…嗣
BACK…弐