黒い煙が薄れていく。
しかし、そこから驚くような昂然の姿が現れる。
そう。
完全に理性をなくしたかのように、眼は血走ってギラギラと光、白かった体が黒色と化していた。
その腕には昌紀を抱いていたままで、いつ昌紀に襲いかかるかと思うと心配でたまらなかった。
「昂然、最後の理性までもを捨てたか…。」
「地に落ちたな…。」
世明たちが口々に言うが、このような光景を初めて見た浩紀は、びくびくしている。
それもそのはずだった。
昂然の妖力は、姿を変える前に比べると格段に上がっているのだ。
その妖力はあまりに強大過ぎて、辺りの空気を震わしていた。
「昂然は理性を捨てることで、力を手に入れたんだ…その代わり、2度と元には戻れないがな…。」
「そんな?!だったら、昌紀が危ないじゃないか!」
「ああ。あいつは今、理性を失っているからな。昌紀の事さえもわからないだろうな…。」
紅蓮は、浩紀の質問に苦々しく答える。
「……。」
浩紀は事の重大さに、言葉を失っていしまう。
「なんて顔をしてるんじゃ、浩紀!昌紀を助けるのだろう?なら、ちゃんとせんか。相手は確かに強い。だが、わしらの力を合わせれば、勝てない相手ではない!!。」
「じい様…。」
「そうですよ、浩紀様。」
「天一…。」
「ああ。安心しろ、浩紀。お前は俺が必ず守ってやる…昌紀もな…。」
「紅蓮…。」
「私も、昌紀を守る時またからな。」
「勾陣…。」
「……。」
「六合…。」
なんだか浩紀は泣きそうになってしまった。
しかし、今はやらなくてはならないことがある。
浩紀は昂然に対し、構えをつくる。
そして、一気に霊力を高め、呪文を詠唱する。
「ナウマクサンマンダバサラダン、センダマカロシャダソワタヤウン、タラタカンマン!」
木が砕ける音が鳴り、込められていた霊力が霧散する。
「さあ、今度こそ最後の戦いを始めるぞ…昂然!!」
浩紀の声に合わせ、今最後の戦いが始まった…。
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