『悲しき運命を打ち破れ』参拾弐

黒い煙が薄れていく。

しかし、そこから驚くような昂然の姿が現れる。

そう。

完全に理性をなくしたかのように、眼は血走ってギラギラと光、白かった体が黒色と化していた。

その腕には昌紀を抱いていたままで、いつ昌紀に襲いかかるかと思うと心配でたまらなかった。

「昂然、最後の理性までもを捨てたか…。」

「地に落ちたな…。」

世明たちが口々に言うが、このような光景を初めて見た浩紀は、びくびくしている。

それもそのはずだった。

昂然の妖力は、姿を変える前に比べると格段に上がっているのだ。

その妖力はあまりに強大過ぎて、辺りの空気を震わしていた。

「昂然は理性を捨てることで、力を手に入れたんだ…その代わり、2度と元には戻れないがな…。」

「そんな?!だったら、昌紀が危ないじゃないか!」

「ああ。あいつは今、理性を失っているからな。昌紀の事さえもわからないだろうな…。」

紅蓮は、浩紀の質問に苦々しく答える。

「……。」

浩紀は事の重大さに、言葉を失っていしまう。

「なんて顔をしてるんじゃ、浩紀!昌紀を助けるのだろう?なら、ちゃんとせんか。相手は確かに強い。だが、わしらの力を合わせれば、勝てない相手ではない!!。」

「じい様…。」

「そうですよ、浩紀様。」

「天一…。」

「ああ。安心しろ、浩紀。お前は俺が必ず守ってやる…昌紀もな…。」

「紅蓮…。」

「私も、昌紀を守る時またからな。」

「勾陣…。」

「……。」

「六合…。」

なんだか浩紀は泣きそうになってしまった。

しかし、今はやらなくてはならないことがある。

浩紀は昂然に対し、構えをつくる。

そして、一気に霊力を高め、呪文を詠唱する。

「ナウマクサンマンダバサラダン、センダマカロシャダソワタヤウン、タラタカンマン!」

木が砕ける音が鳴り、込められていた霊力が霧散する。

「さあ、今度こそ最後の戦いを始めるぞ…昂然!!」

浩紀の声に合わせ、今最後の戦いが始まった…。

 

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