世明が来たことで、周りの空気がひきしまる。
昂然は睨みつけてくる世明を一瞥すると、フッと笑う。
「貴様が来たということは、あ奴らは負けたのか。」
「以外に弱くてびっくりしたよ。」
「フッ、言っていろ。あ奴らなどどうでもよい。我には昌紀さえいれば、他はどうでもいい。」
昂然の言葉に昌紀は陶酔したような顔をする。
「その子は安部 世明の孫、安部 昌紀だ。お前に懐くわけがない!昌紀にいったい何をした!!」
「何を言っておる。人聞きの悪い。我はただ、昌紀の胸の奥にある嫌な記憶を見せただけだ。」
「なっ?!」
嫌な記憶…。
それはきっと、昌紀が幼かったころの記憶だろう。
幼く、愛されるべき時に深く傷つけてしまった頃の…。
しかし、だからと言ってこのまま昌紀を連れて行かれるわけにはいかなかった。
浩紀にとって、どんなにひどい態度をとられようと、昌紀は大事で大好きな双子の片割れなのだ。
「昌紀、お願い!!戻ってきて!俺、昌紀がいなかったらさびしいよ…。それに、俺の事なんか気にせずに本当のこと言ってよかったのに…。俺…昌紀ともっと仲良くしたいよ…。」
浩紀の言葉に昌紀は肩をビクッと揺らす。
しかし、昂然が邪魔をする。
「昌紀、こ奴らの声を聞くな。また、騙され傷つけられるぞ!」
「…でも…守らなくちゃ…ひ…ろき…を…。」
そう言った瞬間、昌紀はいきなり頭を抱えて苦しみ出す。
「あああぁぁぁ!!いやあぁぁぁ!!」
「「「「「「「昌紀?!!」」」」」」」
そして、悲痛な悲鳴がやんだかと思うと、昌紀の体は傾ぎ、地面に吸い込まれていく。
「昌紀!!…紅蓮、昌紀を助けて!!」
「ああ。!!」
紅蓮は答えながら、昌紀の元へと走っていく。
今度こそ傷つけてはいけないと思った…。
今度こそ守らないといけないと思った…。
今度こそ謝らなければいけないと…。
「昌紀!!」
昌紀の体に触れると思った瞬間、強風が吹き目くらましになる。
風が収まってから見ると、目の前にはすでに昌紀はいなかった。
あたりを見回すと、浩紀たちの後ろから声がする。
「貴様らなどに昌紀をとられてたまるものか!!」
そう言っている、昂然の腕の中には昌紀が意識を闇に落としていた。
「さぁ、我から昌紀を奪おうとしたこと、後悔させてやる!!」
と、黒い煙を体から出しながら笑って言った…。
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