『悲しき運命を打ち破れ』参拾

 

世明が元佳や鎖響と戦っていたころ、浩紀たちは昂然のもとに急いでいた。

「ねぇ紅蓮、じい様は大丈夫かな?」

「世明なら大丈夫だ。あいつは当代一の陰陽師だからな。」

「そうだぞ。世明は歳をとって衰えたが、それでも強い。浩紀よりもな。」

「そっか…。」

しゃべりながら走っていると、いきなり霊力の塊が襲ってくる。

それも、その霊力は十二神将にとってはとても馴染みのあるものだった。

そう。

昌浩…否、昌紀の霊力だったのだ。

「……。」

「…ま、昌紀?」

霊力の塊が来た方向を見ると、昌紀が木の上で立っていた。

そしてその横には、かつて死闘の戦いを繰り広げた相手…昂然が優艶に笑んでいた。

「昌紀、おしかったな。さあ、早くこいつらを倒して、我らが屋敷に戻ろうぞ。」

昂然の言葉に昌紀はコクッとうなずく。

「な、なんで?昌紀がここに?じい様の処にいたはずなのに…。」

「何を言っておる。昌紀は最初っから、我のそばにいたぞ。」

「昌紀!何やってんだ、お前!早くこっちに戻ってこい!!」

一向に動こうとしない昌紀に、しびれを切らした浩紀が叫ぶ。

「何が言いたいんだ、浩紀。俺は望んで昂然のそばにいるんだ。最後の約束を守ってくれないような奴らのそばに、これ以上いたくないからな…。それに、お前にそんなことを言う資格はないんだよ…浩紀?」

昌紀の言葉に皆は一様に驚いてしまう。

それもそうだろう。

昌紀の表情は今まで見たことのない無表情で、冷酷に憮然と殺気を込めて言ってきたのだ。

「…ま、まさ…き?」

「なんで、俺だけがこんなつらい目に会わなければならないんだ?なんで、お前だけが幸せに笑っているんだ?なんで、お前の周りにはたくさんの者がいるのに、俺の周りには誰もいないんだ?俺が本物なのに…お前は偽物なのに!!不公平だろう?お前だけが幸せでいるなんて。俺はずっと苦しくて、さびしくてしょうがなかったのに!」

昌紀の言葉が浩紀たちの心に突き刺さる。

「昌紀…。」

「昌紀、ごめん!!俺、ずっと一緒にいたのに全然気づけなくて!!」

「…ハハハッ、ハハハハッ!!」

昌紀は浩紀の言葉にいきなり大きく口を開け、笑い出す。

「フフッ。今更、何言ってるんだよ。気付けなかった?気付こうとしなかったの間違いだろう。十二神将たちは俺を忌み嫌い、侮蔑を含んだ目でにらまれ、毎日毎日嫌なことを言われ…俺は我慢しただろう?ずっと苦しかった。俺が昌浩なのに、なんで俺の事を見捨てたんだ!!浩紀なんて嫌いだ!おじい様も…でも、十二神将が一番嫌いだ!!…お前らなんか死んでしまえばいい。俺をここまで苦しめたんだ、当然の報いだよな?」

「「「「……。」」」」

昌紀の言葉に浩紀たちは口をつぐみ、言葉を発せなくなってしまう。

…昌紀の言っていることは正しいから。

「昌紀、もう大丈夫だぞ。我がいるからな。」

昂然は優しく言いながら、昌紀を優しく抱きしめる。

「うん、昂然。」

昌紀は抱きしめられたことが嬉しそうに笑う。

その光景は、紅蓮たちにとって到底受け入れられるものではなかった…。

しかし、その空気を破るものがいた。

その者は「その子を返してもらおう。」と言って、公然を睨みつけた。

そう。

昌紀たちの祖父。

当代随一の陰陽師、安部 世明その人だった。

 

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PARALLELⅡ