世明が元佳や鎖響と戦っていたころ、浩紀たちは昂然のもとに急いでいた。
「ねぇ紅蓮、じい様は大丈夫かな?」
「世明なら大丈夫だ。あいつは当代一の陰陽師だからな。」
「そうだぞ。世明は歳をとって衰えたが、それでも強い。浩紀よりもな。」
「そっか…。」
しゃべりながら走っていると、いきなり霊力の塊が襲ってくる。
それも、その霊力は十二神将にとってはとても馴染みのあるものだった。
そう。
昌浩…否、昌紀の霊力だったのだ。
「……。」
「…ま、昌紀?」
霊力の塊が来た方向を見ると、昌紀が木の上で立っていた。
そしてその横には、かつて死闘の戦いを繰り広げた相手…昂然が優艶に笑んでいた。
「昌紀、おしかったな。さあ、早くこいつらを倒して、我らが屋敷に戻ろうぞ。」
昂然の言葉に昌紀はコクッとうなずく。
「な、なんで?昌紀がここに?じい様の処にいたはずなのに…。」
「何を言っておる。昌紀は最初っから、我のそばにいたぞ。」
「昌紀!何やってんだ、お前!早くこっちに戻ってこい!!」
一向に動こうとしない昌紀に、しびれを切らした浩紀が叫ぶ。
「何が言いたいんだ、浩紀。俺は望んで昂然のそばにいるんだ。最後の約束を守ってくれないような奴らのそばに、これ以上いたくないからな…。それに、お前にそんなことを言う資格はないんだよ…浩紀?」
昌紀の言葉に皆は一様に驚いてしまう。
それもそうだろう。
昌紀の表情は今まで見たことのない無表情で、冷酷に憮然と殺気を込めて言ってきたのだ。
「…ま、まさ…き?」
「なんで、俺だけがこんなつらい目に会わなければならないんだ?なんで、お前だけが幸せに笑っているんだ?なんで、お前の周りにはたくさんの者がいるのに、俺の周りには誰もいないんだ?俺が本物なのに…お前は偽物なのに!!不公平だろう?お前だけが幸せでいるなんて。俺はずっと苦しくて、さびしくてしょうがなかったのに!」
昌紀の言葉が浩紀たちの心に突き刺さる。
「昌紀…。」
「昌紀、ごめん!!俺、ずっと一緒にいたのに全然気づけなくて!!」
「…ハハハッ、ハハハハッ!!」
昌紀は浩紀の言葉にいきなり大きく口を開け、笑い出す。
「フフッ。今更、何言ってるんだよ。気付けなかった?気付こうとしなかったの間違いだろう。十二神将たちは俺を忌み嫌い、侮蔑を含んだ目でにらまれ、毎日毎日嫌なことを言われ…俺は我慢しただろう?ずっと苦しかった。俺が昌浩なのに、なんで俺の事を見捨てたんだ!!浩紀なんて嫌いだ!おじい様も…でも、十二神将が一番嫌いだ!!…お前らなんか死んでしまえばいい。俺をここまで苦しめたんだ、当然の報いだよな?」
「「「「……。」」」」
昌紀の言葉に浩紀たちは口をつぐみ、言葉を発せなくなってしまう。
…昌紀の言っていることは正しいから。
「昌紀、もう大丈夫だぞ。我がいるからな。」
昂然は優しく言いながら、昌紀を優しく抱きしめる。
「うん、昂然。」
昌紀は抱きしめられたことが嬉しそうに笑う。
その光景は、紅蓮たちにとって到底受け入れられるものではなかった…。
しかし、その空気を破るものがいた。
その者は「その子を返してもらおう。」と言って、公然を睨みつけた。
そう。
昌紀たちの祖父。
当代随一の陰陽師、安部 世明その人だった。
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