『悲しき運命を打ち破れ』弐拾仇

残った世明は、浩紀たちが離れたのを確認すると、言葉を発する。

「…昌紀に何をした。」

「何を言っているんだ、安部 世明。」

「昌紀は、自分の事を省みず戦う子じゃ…。あの子にも力がある。わしを凌ぐくらいのな。」

「フッ。今更気付いたのか。本当にお前らは愚かな者たちだ。」

世明たちを一瞥すると、鎖響は世明めがけて思いっきり昌紀の入っている檻を投げつける。

「昌紀!!」

檻が来る前に、青龍は世明の前に躍り出て、檻をつかもうとする。

しかしその瞬間、檻が壊れ、いきなり煙が立ち込める。

「何だこれは?!」

と、青龍が言った瞬間、立ち込めた煙を裂きながら黒い影が襲いかかる。

「世明!!」

「ナウマクサンマンボダナン、サラバタラボウジシャリヤ、ハリホラキャソワカ!」

世明の起こした術により、襲いかかってきた黒い影を叩き返す。

術が放たれた瞬間、その影から悲鳴が聞こえ、下へと落ちていく。

「くっ…安部 世明!!」

そう。

黒い影は元佳だったのだ。

元佳の能力は姿を変え、相手を惑わすもので、世明たちを惑わすために昌紀に変化していたのだ。

そして、奇襲をしかけようとし、逆に返されてしまった。

「元佳!!貴様、よくも元佳を!!」

元佳が怪我をしたことで鎖響は激高し、怒鳴り散らす。

しかし、世明は落ち着いた様子で答える。

「お前たちこそ、昌紀を連れ去っただろう…。わしにも、守らなければならないものがあるんじゃ。」

と…。

鎖響は世明の言葉が聞こえてないかのように、怒りのままつ込んでいく。

「安部 世明!!!」

青龍は世明の術を唱える時間を稼ぐため、鎖響の攻撃を何度も遮っていく。

「この術は凶悪を断却し不詳を祓除す、急々如律令!」

鎖響の勢いを殺し、元佳ともども世明の術が炸裂する。

再び煙が立ちこもり、薄れていく。

その場には、もう何もいなかった。

元佳も…。

鎖響も…。

「さて、行かねばな…浩紀たちが心配じゃ。やな予感が当たらねばいいんじゃがなぁ…。」

「世明様、昌紀様は大丈夫なのでしょうか?」

今まで、世明に結界を張っていた天一が力をとき、世明に問う。

「きっと大丈夫じゃよ。浩紀や紅蓮が向っておるからなぁ。全く…老体のわしに無理をさすとは、昌紀にまた小言をせねばならないな。」

世明のその言葉に、少し空気が和らぐ。

「ほどほどにしませんと、昌紀様に嫌われてしまいますよ。」

「あの子はわしの事が大好きだから、心配はないよ。ほっほっほっ。」

そう言って、浩紀が言った方向に向かって、進んでいった。

 

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PARALLELⅡ