残った世明は、浩紀たちが離れたのを確認すると、言葉を発する。
「…昌紀に何をした。」
「何を言っているんだ、安部 世明。」
「昌紀は、自分の事を省みず戦う子じゃ…。あの子にも力がある。わしを凌ぐくらいのな。」
「フッ。今更気付いたのか。本当にお前らは愚かな者たちだ。」
世明たちを一瞥すると、鎖響は世明めがけて思いっきり昌紀の入っている檻を投げつける。
「昌紀!!」
檻が来る前に、青龍は世明の前に躍り出て、檻をつかもうとする。
しかしその瞬間、檻が壊れ、いきなり煙が立ち込める。
「何だこれは?!」
と、青龍が言った瞬間、立ち込めた煙を裂きながら黒い影が襲いかかる。
「世明!!」
「ナウマクサンマンボダナン、サラバタラボウジシャリヤ、ハリホラキャソワカ!」
世明の起こした術により、襲いかかってきた黒い影を叩き返す。
術が放たれた瞬間、その影から悲鳴が聞こえ、下へと落ちていく。
「くっ…安部 世明!!」
そう。
黒い影は元佳だったのだ。
元佳の能力は姿を変え、相手を惑わすもので、世明たちを惑わすために昌紀に変化していたのだ。
そして、奇襲をしかけようとし、逆に返されてしまった。
「元佳!!貴様、よくも元佳を!!」
元佳が怪我をしたことで鎖響は激高し、怒鳴り散らす。
しかし、世明は落ち着いた様子で答える。
「お前たちこそ、昌紀を連れ去っただろう…。わしにも、守らなければならないものがあるんじゃ。」
と…。
鎖響は世明の言葉が聞こえてないかのように、怒りのままつ込んでいく。
「安部 世明!!!」
青龍は世明の術を唱える時間を稼ぐため、鎖響の攻撃を何度も遮っていく。
「この術は凶悪を断却し不詳を祓除す、急々如律令!」
鎖響の勢いを殺し、元佳ともども世明の術が炸裂する。
再び煙が立ちこもり、薄れていく。
その場には、もう何もいなかった。
元佳も…。
鎖響も…。
「さて、行かねばな…浩紀たちが心配じゃ。やな予感が当たらねばいいんじゃがなぁ…。」
「世明様、昌紀様は大丈夫なのでしょうか?」
今まで、世明に結界を張っていた天一が力をとき、世明に問う。
「きっと大丈夫じゃよ。浩紀や紅蓮が向っておるからなぁ。全く…老体のわしに無理をさすとは、昌紀にまた小言をせねばならないな。」
世明のその言葉に、少し空気が和らぐ。
「ほどほどにしませんと、昌紀様に嫌われてしまいますよ。」
「あの子はわしの事が大好きだから、心配はないよ。ほっほっほっ。」
そう言って、浩紀が言った方向に向かって、進んでいった。
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