ただ呆然とすることしかできなかった。
1人以外は…。
その1人はもちろん勾陣だった。
勾陣は、昌紀が昌浩だということに気づいていた、数少ない一人である。
「世明、私は今から昌紀を助けに行ってくる。」
「…知って、いたのか?」
あまりの同様のあまりに、声がかすれてしまう。
「ああ。昌紀に教えてもらった。」
その言葉に、茫然としていた紅蓮が激高する。
「そんな訳がない!昌浩は浩紀だ!!あいつの…忌子の言葉をうのみにしてどうするんだ!あいつは俺たちの事も見えないし、術も使えないほど力がないんだぞ。…昌浩のはずがない。」
「お前が気付かなかっただけだ、戯け者。お前が大切なのは、昌浩だけなのか?昌浩じゃない方は、必要ないのか?」
勾陣の言葉が紅蓮だけでなく、皆の心に伝わっていく。
「俺は…。」
「…昌紀は馬鹿だ…。」
「「「「「「「浩紀?」」」」」」」
「言ってくれればよかったのに…。俺たちは、双子じゃないのかよ!!」
悲しそうな顔をしながら、声を引き絞る。
そんな浩紀に、勾陣は教える…昌紀から聞いたことを。
「昌紀は、お前たちが大切だと言っていた。何より、浩紀が…。自分がした思いを浩紀にさせたくないと、お前たちを守りたいと。力も隠し、ひたすら自分を押し殺し、1人で戦っていた…。だから、私はそんな昌紀の力になりたいと思った。」
「…昌紀……。」
「そんな…。」
「…くちゃ。」
「えっ?浩紀、どうしたんだい?」
「昌紀を助けに行かなくちゃ。それで、怒らないと…1人で抱えるなって。」
浩紀の言葉に、皆是を答える。
「しかし、元佳と鎖響が生きていたとは…。」
初めて聞く名前に、浩紀だけが疑問を持つ。
「その元佳と鎖響って、何者なの?」
「元佳と鎖響は、まだ昌紀様や浩紀様が生まれていなかった頃に、世明様が倒した敵です。」
「それより、昂然がよみがえっていたとは…。」
その名前に、十二神将たちは悲しい顔をする。
「清明が死んでから、何があったのじゃ?」
その言葉に、十二神将たちは黙り込む。
しかし、そのままでいても何も始まらないので、代表して天空の翁が話し出す。
「…昂然と言うのは、昌浩が命を賭して封印した敵じゃ。あやつは、あまりに強すぎてわしらは、歯がまるで立たん勝った…。」
「そんなことが…。」
「確か…紫乃女山に封印したのよ。」
『紫乃女山』はあさぎ学園の反対側にある、霊峰の一つだ。
人々には、心霊スポットとして有名で、木が生い茂っている。
「そこに…昌紀が…。」
「行こう…皆。必ず、昌紀を助けるぞ。」
「「「「「「「ああ!!」」」」」」」
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