ポタッ…。
ポタタッ。
テニスコートが濡れていく。
その液体は、雨のように透明ではなく、真っ赤な血だった。
その血は、リョーマの真下に落ちていて、出所はもちろんリョーマからだった。
いきなり起こった出来事に、周りの人々は驚き、慌てふためく。
そう。
リョーマは腕が動かなくなった瞬間、体ごと回転し、ボールを打とうとしたのだ。
しかし、握力も低下していたせいか、ラケットが右手から離れ、そのままポールに吸い込まれていった。
そして、ポールにぶつかって折れたラケットが、リョーマに襲いかかったのだった。
そのせいでリョーマの左ノ瞼は、ざっくりと切れている。
血は、そこから来たものだった。
「とにかく、止血だ!!」
その声に、急いでリョーマの治療の準備をした。
「だめだ…血が止まらない。」
リョーマの傷を消毒し、血を止めようとするが、全く止まる様子はなかった。
「眼球は大丈夫そうだけど、このままじゃ続行はできないな…。」
大石は残念そうに言う。
それもそのはず。
リョーマがこの試合に勝てば、青学の地区大会優勝が決まるのだ。
しかし、リョーマはその声を無視し、桃城に頼みごとをする。
「桃先輩、折れたラケットしまって、新しいラケットを出してもらえますか?」
!!!
リョーマの言葉に周りは驚いてしまう。
大石が無理だと言っているのを無視し、血が止まってもないのに、案に試合を続けると言ったからだ。
「リョーマ、本当にやる気なんだね?」
強気のリョーマに一応確認をとる。
「そうっすよ。悪いっすか?」
「別に悪くはないさ。痛いだろうに…。桃城、ちょっと救急箱かしなっ!」
竜崎の言葉に、桃城は急いで救急箱を渡す。
竜崎はそれを受け取ると、治療を開始する。
素早い手つきで治療していくと、いつの間にか血は止まっていた。
「応急処置だからね、もって15分だ。」
リョーマはさっさと試合を始めようと、桃城の方に行こうとする。
しかし、その間にいきなり大石が割り込んで来た。
そして、大石が何かを言おうとしたとき、手塚が桃城からリョーマのラケットを受け取る。
「手塚…。」
「10分でけりをつけてこい。間に合わなければ棄権させる。」
その言葉に、リョーマは少し微笑んで
「分かったっス。そんだけあれば十分っすよ。」
と、ラケットを手塚から受け取る。
そして、スタスタとコートに入っていく。
「試合続行?!」
「マジかよ?!だって、左目怪我してるぞ!!」
リョーマの行動に、周りの声は大きくなる。
しかし、そんなこと関係なしに試合は続行される。
「0-30」
スパン!!
カウントが言われた瞬間、コートにボールが刺さる。
サービスエース。
そのボールのスピードは、明らかに怪我する前より早かった。
「ねぇ、このぐらいで騒ぎすぎだよ。」
リョーマは笑みを浮かべながら言う。
「…『スポット』でしょ?トップスピンとスライスの上下回転のショットを交互に何度も打たれることによって筋肉が縮みあがり、一瞬麻痺状態になるんだっけ?握力も一時的になくなること、忘れてたよ。」
と悠然と言ってのけた。
そして、さらに驚くことを言う。
「でも、弱点があるんだよね。」と…。
「何だと?!」
リョーマが技の事を知っていたことにも驚いたが、弱点も知っていることに驚愕してしまう。
この技はたった今、伊武が完成させた技だ。
それなのに、すでに弱点を見つけているのだ。
橘はリョーマを見ながら、只者じゃないと思った。
考えている間も、どんどん試合は進んでいく。
試合を見ていると、橘はあることに気づく。
伊武がさっきっから、スライスしか打ってないのだ。
それもそのはず。
リョーマの打つ打球が、全て伊武の体の正面に滑ってくるのだ。
それをトップスピンで返すことはできない。
そう。
打たないんじゃなくて、打てないのだ。
マッチポイントになり、伊武はリョーマの攻撃に体力を奪われ、疲れていた。
しかし、リョーマのボールはいまだ威力は衰えず、逆に上がっているぐらいだった。
ぎりぎりで取れた伊武は、ヒョロいロブを打ち上げてしまう。
「越前、青学の優勝はお前が決めろ!!」
リョーマの小さな体から打ったとは思えない、速いスマッシュが伊武のコートに向かって打つ。
だが、伊武はあきらめずにそのスマッシュを返そうとうとする。
しかし、リョーマが打ったスマッシュは、コートに刺さった瞬間逆回転で伊武の顔面に向かっていった。
パシッ。
「ゲームセット!!ウォンバイ青学越前!!」
「…10分に間に合った?」
そんなリョーマの間抜けな声によって、地区大会は幕を閉じたのだった…。
NEXT…Ⅹ
BACK…Ⅷ