『LONELY THE GENIUS』Ⅵ

 

 

「いよいよだね。」

「うん。」

今から、3年レギュラーの乾との試合が始まる。

この試合でリョーマが勝てば、レギュラー入りが決定する。

しかし、今から当たる乾という男は、ここ半年間レギュラーから落ちたことがない選手だ。

そして、かなり嫌なテニスをする。

リョーマと乾が並んでいると、大人と子供のように身長に差が出る。

挨拶をし、2人の試合が始まる。

「ザ・ベスト・オブ・1セットマッチ・乾サービスプレイ!!」

審判の声が響き、乾がサーブを打つ。

乾の長身から打つサーブは、とても威力があった。

抜ける!

そう思い、ストレートを抜こうとした瞬間、乾が現れる。

「はずれ。」

その言葉と同時に、ボレーを決められる。

次のポイントを始め、ラリーを続ける。

しかし、リョーマは抜こうとするが読まれてしまう。

「いいコースだが、はずれだ。」

そして、また決められてしまう。

再び次のポイントが始まる。

乾は前衛につき、リョーマのボールを待つ。

返ってきたボールをリョーマは、狭い左のコースを強気に抜く。

乾はわかっていたかのように出てくる。

「左の確率75%…。」

!!!

乾に取られたが、越前もぎりぎり追いついた。

しかし、それさえも乾の予想通りだった。

「ナイスキャッチだけど、ボール2個分届かない…。」

そう言うと、ボールは本当にネットのボール2個分届かなかった。

 

「乾先輩、越前が打つとこ、わかってるみたいだ…。」

「海堂先輩より手ごわいね…。」

「当たり前だよ。」

堀尾たちの会話にいきなり入ってきたのは、不二だった。

「乾は海堂君に、3戦3勝なんだから。それに、乾のデータテニスはすごいよ。外れない…。

すると今度は乾がしゃべりだす。

「海堂君の試合も含め、君の過去4試合を見せてもらった。ストレート12本・クロス5本・ロブ3本…今のケースでスライス回転のアプローチに対し、クロスに打ってくる確率は25%…。でも、長身の俺に対して、アそこでのロブはない。そして、右側にオープンスペースができたことによって、強気な君は俺の裏をかくために必ず難しいクロスを狙う。つまり、確率は逆転し、75%になる。」

…嫌な戦い方。

「どんなにいいショットでも、帰る場所さえわかっていたら…打ち返せない球はないよ。」

「…だから?それなら、データの上を行けばいい!!」

トーン。

トーン。

リョーマがいきなりジャンプをし始める。

「予測するの面倒でしょ?だから、しなくてもいいように教えてあげるよ。」

「「「「「「「えっ?!」」」」」」」

乾はリョーマの言葉を無視して、高速サーブを打つ。

リョーマは、それを平然と返す。

「越前の次に打つ方向の確率は…。」

「右に打つから。」

「?!」

リョーマが打ったボールは、リョーマが言った通りに右に行く。

かく乱作戦か?と思いながら、乾は冷静に返す。

「次は左ね。」

コースを言っている、リョーマの戻りは早かった。

「次、ロブを上げるよ。」

しかし、乾はそのコースを読み、スマッシュを打つ。

「今度は左にいくよ。」

「!!!」

スパーン!

返ってこないと思っていた乾の横をボールが綺麗に抜けていく。

しかし、ボール1個アウトする。

「ちょっと焦ったかな?まだまだね。乾先輩のことだから…アウトになるの呼んでたんでしょ?だって、来る場所がわかってたら、返せない球はないんだから。」

その言葉に一斉に周りが盛り上がる。

「あのステップ、『スピリット・ステップ』だね。」

「『スピリット・ステップ』?」

わからないカツオたちのために、堀尾が説明する。

「うん。」

「テニスの基本中の基本で、相手が打つと同時ぐらいに、軽く飛んで両方のつま先で着地することだぜ!それをやると、半歩早くボールに反応できて、次の足が踏み出せるんだ!!」

「へぇ~。なんで?」

「えっと…それは…。」

答えに困った堀尾を不二が助ける。

「筋力の収縮の反動を利用して、ダッシュにつなげるんだよ。だから、スタートが半歩早ければ…1m先のボールに届くんだ!!」

 

「次は左に打って、前に出るよ。」

リョーマはこの試合は初めての攻めに入る。

スピリット・ステップは基本中の基本だが、リョーマのステップは両足で着かずに片足で着く。

そのことによって、越前のリズムが速くなる。

「でも不二先輩、片足で着くのは早いかもしんないっすけど、相手がどっちに打つかわかってないと、逆の足で着いたら、マイナスになりますよ?」

「まさかリョーマ君も、データテニスを?!」

「あのプレーは、乾にしかできないよ。たぶん、飛んでる間に判断しているんだろうね。あれだと、半歩どころか1歩半早い。取れない球も取れるはずだ…よっぽどの天性の嗅覚がない限りできないはずだよ。乾はいま、別人と戦っている気分だと思うよ。」

 

「予測できても、返せない球を打つ奴がいるなんて…。」

「来る場所がわかっても、返せない球がもう1つあるよ。」

「何だと?!」

リョーマはボールを高く上げ、思いっきり打つ。

リョーマが打ったボールは、乾のコートにバウンドした瞬間、乾の顔面に向かって跳ねる。

「出たぁ!ツイストサーブ!!」

そして、そのまま流れはリョーマの方にいき

「ゲームセット・ウォンバイ越前7-5!」

 

そして、リョーマの全勝が決まり、見事1年の青学レギュラーが誕生したのだった。

 

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PARALLELⅣ