『LONELY THE GENIUS』Ⅱ

 

昨日のテニスコートでの出来事を話しながら来る集団がいた。

その集団は、皆が青と白を基調としたものに赤の線が入った服を着ていた。

そして、大きなラケットバッグも持っていた。

「越前 リョーマ?」

「聞いたことあるか?」

「ないよ。」

「でも、桃の話によると、並みの1年生じゃないらしいね。」

「まぁ、あいつが言うんだったら強いんじゃないの。」

「楽しみだね、その子。」

 

 

 

パーン。

パーン。

はっきりとしたインパクト音がコートに響く。

「昨日の先輩、足をけがしてたらしいぜ。だから、お前でも勝てたんだよ。」

「それでもすごかったよ、リョーマ君!」

しかし、リョーマは話に参加しないで、黙々と玉拾いをしていく。

その時、先輩の1人が1年に支持を出す。

「1年生は、コートの周りを10周して、素振りフォア、バック500回ずつ!!」

「「「「「「「はい!!」」」」」」」

一斉に1年が、コートを出ていく。

青学の硬式テニス部の仮入部は、厳しい。

仮入部関係なく、メニューをしていく。

それは、この部が団体戦全国優勝を目標にしている名門の部だからだ。

 

走り終えると、リョーマは素振りを始めようとするが、持ってきたはずのラケットが1本も見つからない。

「どうしたんだよ、越前。ラケットでも忘れたのか?」

「……。」

「お前、部活にラケット忘れてどうすんだよ。」

そこに、先輩がニヤニヤしながらやって来た。

「ラケットも持ってこないなんて、いい度胸してんな。お前、部活舐めてんのか?あぁ?」

「別にそんなことないっす。」

「お前、レギュラーがいないからって、サボってんだろ。」

またか…。

昨日の先輩と戦ったのが原因なのか、2年の先輩が絡んでくる。

それも、前にいる先輩は知らないが、後ろにいる2人は昨日、その時にいた先輩だった。

「そんなに自信満々なら、ゲームしてやってもいいぜ。ああ…でも、ラケットがないんじゃ、しょうがないな。」

「木本、これ貸してやるよ。」

そう言って、前の男木本に部室に眠っていた、ガットゆるゆるのラケットを渡す。

「これなら余ってたぜ。」

と言って、そのラケットをリョーマに向かって投げる。

「なんだよ。相手してくんないのかよ。期待の新人君?」

本当にいい加減にしてほしい。

見え見えな挑発をしてくるしつこい男たち…。

俺は、あの人とテニスをするために来たのに…

「リョーマ君、そんなラケットじゃ無理だよ。」

「そうだよ。」

昨日、知り合った堀尾たちが止めようとする。

「木本たちが、また1年に吹っかけてるよ。」

「あんなラケットじゃ、無理だろっ。」

周りはいつもの荒井の行動に呆れている。

木本たちは、いつも弱いものにあたる。

特に、レギュラーがいない時に…

だから、この風景も案外見慣れたものだった。

「フッ。お前みたいな1年には、そのラケットがお似合いだぜ。これに懲りたら、調子に乗るなよ!」

「そうすれば、大事なラケットが3本とも出てくるかもな!!」

「ハハハッ!」

!!!

スー。

木本たちの言葉を聞いて、今まで黙っていたリョーマが歩きだす。

そして、コートに入っていく。

「いるよね。弱いからって、小細工する奴。試合やるんでしょ?さっさとやろうよ。」

そう言って、ラケットで木本を指す。

「何だと、てめぇ!!」

「リョーマ君!!」

「いい度胸じゃねぇか。そんなにコテンパンにされたいんだったら、お望み通りしてやるよ。」

 

 

 

パヒュ。

ポールはラケットに当たるとヒョロ、ヒョロと弱弱しく飛んでいく。

しかし、ネットにも届かず下に落ちる。

当たり前だ。

ガットもゆるゆる、フレームもガタガタ。

そんなラケットできちんとしたボールが打てるはずがない。

「へっ、さっきの威勢はどうしたんだよ?」

「やっぱり、あのラケットじゃ無理だったんだよ…。」

「1度でかいことを言ったんだ。最後まで、つきあってもらうぜ!!」

そう言って、木本はまたサーブを打つ。

ぺしっ。

今度は大きくコートをアウトし、フェンスに当たる。

「なんだ、あのインパクト音?!」

「全然コントロールきかないじゃん!!」

その時、コートの入口の方から空気がざわつく。

「何してんだ、あれ?」

「面白そうだね。」

「手塚が来たら、どやされそうにゃ。」

「レギュラーが返ってきた!!」

誰かがいい、リョーマ以外がそっちを見た。

「まともに打ったって、あのラケットじゃ無駄だろう。」

「う~ん。あんなラケットじゃ、まずスピンはかからないだろうね。」

「あの子が噂の越前 リョーマ?」

「そうっすよ。」

「桃。」

「あいつ、絶対来ますよ。」

へっ。ざまあみろ!

これだけの人数の前で、恥をかきやがれ!!

ちょうどレギュラーも帰ってきたことだし、俺の強さを見せつけてやる!!

周りがうるさい中、リョーマは1人フレームを触る。

「…なるほどね。」

小さな声でそう言うと、再び木本がサーブを打つ。

「強がりやがって!!」

パン。

ボールはこぎみいい音をたてて、リョーマのコートに入る。

しかし、リョーマは体全体を使い、打ち返す。

変な音を出しながら、綺麗に木本のコートに返った。

「おー体を回転させて、スピンをかけたよ。」

めちゃくちゃ遅っ…。

周りは、リョーマの意外な反撃に盛り上がる。

「ふざけるな!1球返したぐらいで、調子に乗ってんじゃねぇ!!」

スパン!!とサーブをまた打つ。

しかし、さっきと同じようにリョーマのボールは綺麗に決まる。

「ばかな…。」

このままじゃ、こっちがいいさらし者になっちまう…!!

サーブを再び打ち、前に出る。

リョーマはきちんと返し、木本はそのボールをドロップショットで前に落とす。

しかし、リョーマはぎりぎりキャッチする。

その時、木本がニャッと嫌な笑いを浮かべる。

「おらあぁぁ!!」

木本は思いっきりラケットを振りかぶる。

「何をしている。」

低い声がコートに響き渡る。

その声に、リョーマはそっちを向いてしまう。

ずっと…会いたかった人の声だったから…。

 

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