「ただいまから1時まで休憩です。1時からすぐに、競技が始まりますので次の選手は整列しておいて下さい。」
そのアナウンスが流れた瞬間、皆が一斉に気を抜く。
「なあ、どこでご飯食べる?」
「とりあえず、親が持ってくるから取りに行かないと。」
「そっか。じゃあ、ここで食べようぜ。」
「了解。またあとでな、燈湖。」
「おう、昌紀もな。」
そう言って、2人は別れていく。
昌紀は親がいると思われる、保護者の観覧席に向かう。
「昌紀、さっきはすごかったな。」
常人には何も見えないところから、声が聞こえてくる。
しかし、昌紀は平然と返事をする。
「ありがとう。ねぇ勾陣、母さんたちがどこにいるか知らない?」
「たぶん観覧席にいると思うぞ。世明や哉央、昌央も。」
「えっ?!皆、来てたの?!」
「ああ。お前たちの頑張っている姿が見たいと言ってな。」
その言葉に、大変なことを思い出す。
「…じゃあ、あの姿も見られての…?」
少し声が震えながら勾陣に問う。
しかし、安心する答えが返ってきた。
「それは大丈夫だと思うぞ。途中から来ると言っていたからな。」
「…良かった。」
本当に良かった…。
あんな姿を見られるくらいなら、死んだ方がましだ。
「昌紀、こっちよ。」
観覧席から声をかけられる。
そっちの方を向いてみると、母親たちがいる。
「母さん。」
「遅かったわね、昌紀。浩紀はもう来てるわよ。」
「すいません。少し、混んでいたんです。」
「さっきのリレーすごかったぞ。」
「ありがとうございます、哉央兄さん。すいませんが、友達を待たしているので、行きますね。」
「一緒に食べないのかい?」
「はい、すいません。」
そう言うと、弁当をもらって急いで戻っていった。
1時になり、アナウンスが流れ出す。
「次は昼の部、プログラム12番借り物競走です。」
昌紀と燈湖は関係ないので、紅組のテントにいた。
「この次だな。」
「ああ。騎馬戦はけが人が多いから、お互いに気をつけような。」
「でも、上の昌紀の方が危ないぞ。」
2人が話している間も、借り物競走は続いている。
その中には浩紀もいた。
この借り物競走は、たくさんの種類の借り物が書いた紙が用意されていた。
校長、数学の先生全員、ホース、帽子など。
「昌紀!!」
いきなり走ってきて、声をかけてきたのは浩紀。
「何だよ。」
「ついてきて!お題、生徒会長なんだ。」
「わかった。燈湖、ちょっと行ってくるな。」
「頑張れよ。」
「ああ!行こう、浩紀。」
「うん。」
予想外の頼まれごとで少し驚いたが、嬉しかった。
昌紀も足が速いが、浩紀も速い。
だから、走って追い抜いていく。
周りは、めったにそろわない昌紀と浩紀の双子がいっしょにいるので、興味津津と見守っている。
「お題は何ですか?」
と係りの人に聞かれたので、お題の紙を見せながら
「生徒会長。」
「OKです。」
「協力してくれて、ありがとう。」
「いや、別にいいよ。じゃあ、次の競技があるから行くな。」
「ああ。」
少しずつだが2人のわだかまりがとけていった…。
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