「ただいまより、第57回あさぎ学園体育祭の開会を宣言します。私たちは、スポーツマンシップにのっとったプレーをし、悔いの残らないように協力して、頑張ります。」
開会宣言が終わると、次は応援合戦だ。
昌紀にとって、応援合戦は1番の難関だった。
「昌紀、速く着替えないと時間がなくなるぜ。」
「…分かってる。」
「生徒会長が、往生際が悪いぜ。」
そう。
生徒会役員は、応援合戦で女装をしなければならないのだ。
昌紀にとって、それは屈辱だ。
昌紀の見た目は華奢で可愛らしいかもしれないが、それでも男だ。
男としての矜持がある。
しかし、校長が決めたことだ。今さら、どうしようもない。
「はぁ…。」
覚悟を決めないとな…。
「着替えに行こうか、海翔。」
「ああ。さっさと終わらせて、楽しもうぜ。」
「そうだな。」
「プログラム1番。全校生徒によります色別対抗応援合戦です。」
アナウンスの声が聞こえ、一斉に紅組からスタートする。
A組が紅、B組がピンク、C組が蒼、D組が水色、E組が白だ。
昌紀は2-Aなので、紅組だ。
応援合戦はAから順にやっていくので、昌紀はトップバッターだ。
しかも、紅組の応援団長をしているので頑張らなければならない。
急いで着替え、テントから出て声をかける。
「皆、行くよ!」
「「「「「「「……。」」」」」」」
予定では昌紀の声に合わせて、団員の皆が答えるはずだったのに、誰も答えない。
「皆、どうしたの?」
昌紀は皆が、自分の女装姿に見とれているのに気付かない。
今の昌紀は、あさぎ学園の女子の夏の制服を着ている。
あさぎ学園の制服は、こげ茶色のブレザーだ。
しかし、昌紀の姿はそこらへんにいる女子より、いや、どんな女子よりも可愛かった。
「お前…昌紀なのか?」
「何言ってんだよ、燈湖。」
「すいません~。紅組、まだですか?」
「すいません。今、行きます。皆、緊張しているかもしれないけど、悔いが残らないようにやろっ?!」
昌紀の言葉に、皆が我に返ったように「おぉ!!」と声を出す。
「よし、今度こそ行くよ!!」
「「「「「「「オーーー!!」」」」」」」
ダッ、ダッ、ダッ。
一斉に入場門から運動場に向かって走っていく。
そして、昌紀や燈湖など何人かの代表者がステージに立つ。
頭に引っかかっているマイクの電源を入れて
「今から、紅組の応援を始めます。礼。」
と昌紀が言う。
その言葉に合わせて、応援が始まった。
紅組の応援はアクロバティックなどを盛り込んだものだ。
その臨場感と派手さに、皆盛り上がった。
他の組もいろいろな方法で応援をした。
ピンク組は和を盛り込んだ舞のような応援。
蒼組みは空手を取り込んだ一般的な応援。
水色組は団員全員でのダンスで応援。
白組は女子中心による新体操のような応援。
どの組も素晴らしく、とても盛り上がっていた。
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