「では、行ってきます。」
「待って、昌紀。今日、見に行くからね。一緒にご飯食べるでしょ?」
「役員の仕事が忙しいんで、たぶん無理です。」
「そう…。じゃあ、弁当をわけておくわね。」
「すいません。ありがとうございます。」
「いいのよ。頑張ってね。」
「はい。行ってきます。」
そう言って、学校に行く。
今日は、体育祭当日。
昌紀の学校、あさぎ学園の行事はとても豊富で盛大だ。
体育祭では、たくさんの屋台が並び、多くの人が応援に来る。
その多くの人々の狙いが、昌紀たち生徒会のメンバーだと、昌紀はまったく気づいていないが。
「待って、昌紀君。私も一緒に行っていい?」
そう声をかけてきたのは、彩子だった。
「断る。藤原さんはいつも、もう1人の藤原さんと浩紀とで学校に行ってるじゃないですか。」
「……よ。」
「…えっ?」
「彩子よ。私は、藤原じゃない。彩子よ!!」
その言葉に、昌浩だった時の事を思い出す。
こんな風に彰子も昌浩に言ってきた。
「ごめん、彩子。」
と、初めて彩子に向けて微笑む。
その笑みはとても綺麗で、彩子は見とれてしまう。
「でも、2人はいいの?一緒に行く約束してるんじゃないのか?」
「大丈夫よ。私、ずっと昌紀君と話してみたかったの。」
「昌紀でいいよ。」
「えっ?!」
「君はいらないって。同い年だろ?だから、俺も敬語はやめた。」
その言葉に驚く。
いつもの昌紀を全然違うからだ。
声も話し方も、表情も。
「ありがとう、昌紀!!」
昌紀がとても昌浩にかぶる。
皆は、浩紀が昌浩と言っていたのに…。
しかし、彩子には昌紀が昌浩にしか思えなかった。
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