「ん…。ここは…?」
目が覚めた昌紀が見てみると、そこは自分の部屋だった。
しかし、昌紀には自分の部屋に帰った記憶はない。
鎖響と元佳との戦いの記憶で途切れている。
「勾陣が連れてきてくれてのか…。」
そう。
勾陣に力があることがばれてしまった。
鋭い勾陣の事だ、俺が昌浩だということも気付いただろう…。
どうしよう…。
…ごまかすべきか。
…ちゃんと話すべきか。
勾陣の事だから、ごまかしは通じないだろうな。
いろいろ考えていると、勾陣が入ってくる。
「昌紀、大丈夫か?」
そう言いながら、昌紀の額を触る。
「熱はないみたいだな…。お前は、3日も目覚めなかったんだぞ。」
「えっ?!そんなに?!」
「ああ。もう少し、自分の体を大事にしろ…。」
その言葉に少し驚いてしまう。
昌紀はずっと嫌われていると思っていた。
だから、自分の事を心配してくれたんだと嬉しくなる。
そんなことを考えながら、本題に取り掛からろうと話題を変える。
「…皆には俺の事、話したの?」
「いや、話していない。」
!!!
「なんで?!だって…。」
「お前が話すなと言ったんだろう。それに、知られたくないことを言う趣味は、私にはないぞ。」
「そっか…ありがとう。」
ばれていると思っていた昌紀は、拍子抜けをしてしまった。
しかし、その心づかいに救われた。
まだ、昌紀が昌浩と他の人にばれるわけにはいかない。
というより、一生ばれてほしくないと、昌紀は思っている。
「でも、知ったことを忘れろとは言えないから…聞きたいことあったら聞いて?答えられることならできるだけ、答えるから。」
その言葉に、待ってましたと勾陣は問う。
「分かった。お前はいったい何者なんだ?」
その質問に呆れてしまう。
「いきなり直球だね…。」
「こんなことを回りくどく聞いて、どうするんだ。」
「まあ、その通りだけど…。」
昌紀はそこで言葉を切って、真実を語りだす。
「…簡単に言えば、俺が…昌浩なんだ。」
しかし、勾陣は驚きもせず答える。
「そうか。」
「なんで、驚かないの?」
「これでも、驚いているぞ。しかし、何となくわかっていたからな。」
鎖響と元佳との戦いを思い出す。
あれだけ派手に、力を使っていたんだ。
ばれて当たり前だ。
「そりゃそうだね。」
「なぜ、言わなかったんだ?」
勾陣の言葉に、昌紀の雰囲気がいきなり変わる。
「なぜ?それを勾陣が言うの?俺の事なんかどうでもよかったくせに…。それに、小学生2年生が『俺が昌浩だ』って言って、信じる?そんな言葉誰が信じると思ってんの!!」
「昌紀…。」
「…俺が昌浩になったら、浩紀はどうなるの?こんな想いをするのは、俺だけで十分なんだ!ばれなければ、ずっとこのままでいられる。浩紀は傷つかなくて済むんだ!!」
そして、さっきまでの激しさが嘘のように静かに言う。
「皆が大切なんだ…。今のままだったら、皆幸せだろ?守りたいんだ…皆を…。」
昌紀の瞳から涙がこぼれる。
勾陣は、今までの自分が恥ずかしいと思った。
この小さな子に、たくさんのものを背負わせていたと…。
そして、この子をたくさん傷つけてしまっていたと…。
「すまない…。」
「別にいいよ…。」
「…私たちを恨んでいないのか?」
答えが怖かったが、静かに問う。
すると、昌紀は少し目を大きく開き、そして軽く笑う。
「…恨んでなんかないよ。だって、皆の事、大好きだもん。」
その言葉に、昌浩みたいに優しい子になったな…と思った。
「そうか…。今まで、つらい思いをさせてしまって、すまなかった。これからは、私がお前の力になり、そばにいよう。」
「本当?」
「ああ。」
ただ、単純に嬉しかった。
俺を昌紀として見て、接してくれていることが…そして、その言葉が…。
「…ありがとう。」
と、満面の笑みで言った…。
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