『悲しき運命を打ち破れ』壱拾嗣

「ん…。ここは…?」

目が覚めた昌紀が見てみると、そこは自分の部屋だった。

しかし、昌紀には自分の部屋に帰った記憶はない。

鎖響と元佳との戦いの記憶で途切れている。

「勾陣が連れてきてくれてのか…。」

そう。

勾陣に力があることがばれてしまった。

鋭い勾陣の事だ、俺が昌浩だということも気付いただろう…。

どうしよう…。

…ごまかすべきか。

…ちゃんと話すべきか。

勾陣の事だから、ごまかしは通じないだろうな。

いろいろ考えていると、勾陣が入ってくる。

「昌紀、大丈夫か?」

そう言いながら、昌紀の額を触る。

「熱はないみたいだな…。お前は、3日も目覚めなかったんだぞ。」

「えっ?!そんなに?!」

「ああ。もう少し、自分の体を大事にしろ…。」

その言葉に少し驚いてしまう。

昌紀はずっと嫌われていると思っていた。

だから、自分の事を心配してくれたんだと嬉しくなる。

そんなことを考えながら、本題に取り掛からろうと話題を変える。

「…皆には俺の事、話したの?」

「いや、話していない。」

!!!

「なんで?!だって…。」

「お前が話すなと言ったんだろう。それに、知られたくないことを言う趣味は、私にはないぞ。」

「そっか…ありがとう。」

ばれていると思っていた昌紀は、拍子抜けをしてしまった。

しかし、その心づかいに救われた。

まだ、昌紀が昌浩と他の人にばれるわけにはいかない。

というより、一生ばれてほしくないと、昌紀は思っている。

「でも、知ったことを忘れろとは言えないから…聞きたいことあったら聞いて?答えられることならできるだけ、答えるから。」

その言葉に、待ってましたと勾陣は問う。

「分かった。お前はいったい何者なんだ?」

その質問に呆れてしまう。

「いきなり直球だね…。」

「こんなことを回りくどく聞いて、どうするんだ。」

「まあ、その通りだけど…。」

昌紀はそこで言葉を切って、真実を語りだす。

「…簡単に言えば、俺が…昌浩なんだ。」

しかし、勾陣は驚きもせず答える。

「そうか。」

「なんで、驚かないの?」

「これでも、驚いているぞ。しかし、何となくわかっていたからな。」

鎖響と元佳との戦いを思い出す。

あれだけ派手に、力を使っていたんだ。

ばれて当たり前だ。

「そりゃそうだね。」

「なぜ、言わなかったんだ?」

勾陣の言葉に、昌紀の雰囲気がいきなり変わる。

「なぜ?それを勾陣が言うの?俺の事なんかどうでもよかったくせに…。それに、小学生2年生が『俺が昌浩だ』って言って、信じる?そんな言葉誰が信じると思ってんの!!」

「昌紀…。」

「…俺が昌浩になったら、浩紀はどうなるの?こんな想いをするのは、俺だけで十分なんだ!ばれなければ、ずっとこのままでいられる。浩紀は傷つかなくて済むんだ!!」

そして、さっきまでの激しさが嘘のように静かに言う。

「皆が大切なんだ…。今のままだったら、皆幸せだろ?守りたいんだ…皆を…。」

昌紀の瞳から涙がこぼれる。

勾陣は、今までの自分が恥ずかしいと思った。

この小さな子に、たくさんのものを背負わせていたと…。

そして、この子をたくさん傷つけてしまっていたと…。

「すまない…。」

「別にいいよ…。」

「…私たちを恨んでいないのか?」

答えが怖かったが、静かに問う。

すると、昌紀は少し目を大きく開き、そして軽く笑う。

「…恨んでなんかないよ。だって、皆の事、大好きだもん。」

その言葉に、昌浩みたいに優しい子になったな…と思った。

「そうか…。今まで、つらい思いをさせてしまって、すまなかった。これからは、私がお前の力になり、そばにいよう。」

「本当?」

「ああ。」

ただ、単純に嬉しかった。

俺を昌紀として見て、接してくれていることが…そして、その言葉が…。

「…ありがとう。」

と、満面の笑みで言った…。

 

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PARALLELⅡ