「行ってきます。」
そう言って、清は玄関の扉を開いて学校に行く。 制服であるブレザーを着て、肩には2本の尻尾がある犬の姿をしている誓を乗せていた。 後者はただびとには見えないが…。 「大丈夫か?」 「何が?」 「最近、眠りが浅いだろう?」 「ただ夢見が悪いだけだから、大丈夫だよ。」 きっと、誓は気付いている。 俺が昔の夢を見ていることを。 特にこの時期は酷い。 体調を崩すことがあるほど…。 しかし、俺が大丈夫って言ってるから、気にしないふりをしてくれているんだろう。 今は皆がいる。 ちゃんとわかっているのに、1度深く傷つけられた心は簡単には治らない。 そう。 俺が苦しんでいる原因は安部家にあった。 神納家は平安時代、稀代の陰陽師 安部 清明をはじめとする優秀な陰陽師を数々と輩出した古い貴族の家である安部家の分家だ。
安部家は何より血と規則を重要視し、堅く守ってきた古い考えを持つ一族だ。 そんな安部家に、次々と平安時代に有名だった陰陽師の生まれ変わりが生まれてきた。 清明、吉昌、成親、昌親…と。 次はきっと昌浩の生まれ変わりが生まれてくるのだろうと、皆楽しみにしていた。 そして、14年前ついにその日が来たのだ。 しかし、そこで大きな問題が起こった。 それは生まれてきた子供が双子だったということ。 普通の人は特に気にすることでもないが、安部家は違った。 双子は古来より不吉だと言われていた。 何よりそう言うのを重んじる安部家は、不吉だと騒がれた。 それに、『昌浩』が危険になると…。 昌浩がどちらなのか調べる方法は実に単純明快だった。 霊力の大きい方。 また、十二神将である闘将 騰蛇が近づいても泣かないかだった。 そして、すぐに結果は出た。 霊力は兄の方が高く、なお且つ騰蛇が近づいて静かに泣いた子と違って笑っていた。 その子は昌明と名づけられ、もう1人の子は名前もつけられず忌子と呼ばれた。 昌明は皆に大切に育てられた。 しかし、一方の忌子とされた子は満足に世話もされず、御飯もきちんと与えられなかった。 そして、そのまま育っていった子はいつの間にか表情をなくし、しゃべれなくなってしまっていた。 そんな様子を見た、勾陣と青龍は子を助けるために哉央と昌央と協力して、神納家に預けたのだった。 そうして子は神納家の養子になった。 しかし、どんなにいやされようと、幼い頃1番愛される時期に傷つけられた脆い心は、そう簡単に癒されなかった。 深い傷がいつまでも残ったまま、時だけが過ぎていくのだろう…。 NEXT…弐 BACK…始