城下はいつものように人であふれていた。
買い物客でにぎわっていて、そこら中から声が聞こえる。
これは、何年か前には考えられないことだった…。
そう。
我が王…ユーリのおかげで。
しかし、ユーリはフットワークが軽すぎて、すぐに色々な所に勝手に行ってしまう。
今回もいつの間にか消えていた。
またどこかに行って、誰かと仲良くなっているのだろう。
それはもちろんいいことなのだが、もう少し王という自覚を持った方がいいのかもしれない。
そんなことをつらつらと考えていると、広場の方から綺麗な歌声が聞こえてくる。
その歌声は心を洗うような、神聖な感じがした。
そう。
例えるなら、それは巫女が神にささげるような祝詞のようだった。
人々も歌っている子の周りに集まり、静かに聞いていた。
コンラートもそちらを向き近づいていくと、その女の子の横に探していたユーリがいた。
楽しそうに、嬉しそうに、彼女の歌を聞いていた。
すると、彼女の歌が終わる。
その瞬間、周りから一斉に拍手が鳴り響く。
ユーリも感動しているらしく、涙目で拍手をしていた。
まあ、俺も拍手をしていたが…。
俺は、拍手をしたままユーリに近づいていく。
「!!!カクさん!ごめん、俺いつの間にかはぐれちゃってて…でも、会えてよかった。」
「本当に…あなたが無事で良かったですよ。」
「ねぇミツエモン、この人はあなたの連れ?」
「うん!こっちはカクさん。で、こっちはさっき知りあったティファ。さっき歌ってた通り、とっても歌がうまいんだ!!」
「俺も来る途中に聞きました。とてもうまいですね。こんなに心に澄み渡るような歌を聞くのは、初めてでしたよ。」
「ありがとうございます!そんな風に言われたのは初めてです。」
と、コンラートの言葉と笑みに顔を赤くしながら言う。
「それにしても、よくここにいるってわかったね。」
「俺があなたの居場所がわからないはずないじゃないですか。」
その言葉に今度は、ユーリが顔を赤くする。
楽しく雑談している中、それを遮る太い声が聞こえてくる。
「ここで、何をしているんだ!!」
そう言いながら歩いてきたのは、少しぽっちゃりとした男だった。
「何の用ですか?」
「何の用だと?!お前ら、誰の許可をもらってここで歌っている!!」
その男はティファの腕をつかみ、引き上げる。
「いやあぁ!」
「何してんだよ、おっさん!!ティファを放せ!」
ティファの悲鳴に反応したユーリは、とっさに男の腕をつかむ。
「「ミツエモン!!」」
コンラートとティファのこえが重なりながら、ユーリを呼ぶ。
しかし呼んだ瞬間、男はユーリの細い腕をつかみ、投げ飛ばす。
「放せ!!」
「うわぁ!」
「ミツエモン!」
痛みが来ると覚悟を決め、眼をつむるが一向に痛みは来ない。
それもそのはず…コンラートがユーリを抱きしめていたのだ。
「大丈夫ですか?」
「うん。ありがと、助かった。」
「いえ。あなたが無事でよかった。少し、離れていて下さい。あいつを倒します。」
「気をつけてね。」
そう言うと、コンラートはティファから男を離し、攻撃する。
その全てが、一連の流れた動作になっていて、目が奪われてしまう。
「これに懲りたら、2度と俺たちに近づくな。」
威嚇を込めた目でにらみながら言う。
コンラートにおびえた男は「お、覚えていろ!!」と言うと、逃げ帰るようにして走って行った。
「大丈夫ですか?」
「はい…本当にありがとうございました。」
「でも、このままじゃ終わりそうにないよね…。」
「ええ。きっと、また来るでしょうね。」
…その言葉は期待とは裏腹に、現実のものとなってしまったのだった。
そう。
たくさんの者を連れて…。
NEXT…Ⅱ
BACK…PROLOGUE