「うわぁ!!」
「きゃあぁ!!」
2人の軽い悲鳴が重なり、その後すぐにドスッという痛そうな音が聞こえてくる。
「ご、ごめんなさい!」
大きいサングラスをかけた、茶髪の男の子が先に立ちあがり、もう1人の子に手を差し出す。
そう。
お互いにぶつかり、こけてしまったのだ。
「あ、ありがとう。こちらこそごめんなさい。」
「いや、俺がちゃんと周りを見てなかったから…。怪我してない?」
「ええ。大丈夫よ。」
「俺はミツエモン。君は?」
ミツエモンが名前を聞いてきたのですぐ答える。
「私はティファよ。」
しかし、ミツエモンと名乗った少年らしき子は少し…いや、かなりおかしい。
服などは、一見私たちと同じような服なのに、生地はしっかりとしている。
サングラスや長い前髪のせいで、ほとんど顔を見ることもできないし、それに、ミツエモンという名前など聞いたことがない。
「ティファは、ここで何をしていたの?」
こことは、広場の事である。
王都の大通りの中央あたりにある噴水の事で、この辺りはたくさんので店などが出ていて、いつも賑わっていた。
「私は歌を歌って、お金を稼いでいたのよ。」
「ふ~ん。ティファって、すごいんだね。」
と、笑みを浮かべる。
顔がほとんど見えないので、おそらくだが…。
「そんなことないわ…。私ね、いつか私の歌を魔王陛下に聞いてもらうのが夢なの!今の魔王陛下に変わって、とても暮らしやすくなったわ。だから、お礼に聞いてもらいたいの…感謝の気持ちを込めて。でも、魔王陛下にとっては、私の歌なんて耳汚しになってしまうかもしれないけど…。」
ティファの言葉に、ミツエモンは憤慨したように言う。
「そんなことないよ!!きっとお…じゃなくて、魔王陛下だって喜んでくれるよ。」
「…ありがとう。」
ミツエモンは不思議な少年だ。
誰にも言ったことがなかったのに、するっといつの間にか言葉にしてしまっていた。
なぜかミツエモンと一緒にいると、心が安らいだ。
「ねぇ、聞かせてよ!!ティファの歌。俺、聞いてみたい!」
「別にいいわよ。でも、あんまり期待しないでね…緊張しちゃうから。」
そう言うと、ティファは思いっきり息を吸い込み、大きな澄んだ声で歌い始めた。
その歌声は、広場全体に広がっていき、人々の心をひきつけていった…。
NEXT…Ⅰ