『歌姫の声』Ⅰ

ギィ~~~

大きくて、古い扉が開く音。それはまるで、誰かが泣き叫んでるかのような低い音。中は暗くてよく見えないが、2階に肖像画があることが分かった。

ぎゅう。

震えながら、カイルの裾をつかむルナ。

「怖いよぉう。」

「しょうがないなぁ。明かりつけてやるから、泣くなっ!」

「うん。」それでも泣きそうなルナが、必死に言う。

ヒュウゥ……。

魔力が高まっていく音が屋敷の中を反響し、まるで幽霊がおいでと言っているかのように聞こえる。

その音を跳ね返すかのように、カイルが綺麗な声で唱える。

『光のともしび(ライトレイン)』

ボッ。ボッ。と次々に屋敷の中に明かりがついていく。そして、いつのまにか、全ての明かりがついていた。

『ありがとう、カイル!』

ぎゅう。と抱きつく。

カァ~~。顔を真っ赤にして、照れくさそうに

「別に、約束を守っただけ。」とふてぶてそうに言った。

さすがだ。このでかい屋敷を一瞬にして、明るくするなんて…。普通だったら、この屋敷の4分の1でもできたら十分なくらいなのに…

なんて、魔力の多さなんだ。

「ルイ、何考え込んでんの?!」

ハッと、我に返るルイ。

「ご、ごめん。寒くて、ボーとしてた…。」

「大丈夫?!カイル!!ルイが寒いって言ってるでしょ。早く暖かくしてよ!」

「え~~~」といやそう顔をしながらも、魔力を高めていく。

嫌そうなふりをしても、ちゃんとやってくれるんだよね!!やっぱり、カイルは優しい。

その時、誰かが「駄目だ!!」と叫んだ。

「えっ…?」

そう。ルイが叫んだのだ。

周りの空気がシーンとした。聞こえるのは皆の息の音だけ。

静まり返った空気の中、ルイがしゃべりだした。

「カイルは今、すごい量の魔力を使ったんだ。これ以上魔力を使うと、命にかかわる。」

とすごい形相で言う。

しかし、カイルはきょとんとして

「えっ?別に危なくなんてないよ。俺、元気だし。」とニコッと笑う。

あの笑顔は絶対脅してる。たぶん、これ以上言ってみろっ。お前を燃やして、この屋敷を暖めるぞ!!とか思ってるよ。

「へ、平気ならいいけど、無理するなよ。」

今の言葉、かなり動揺してた。ルイをいじめる奴は、私が許さない!!

「カイル!!ルイをいじめるなぁ!」

と勢いよく言うユノ。

「……?どこをどう見たら、いじめてるように見えるんだ?!」

そう。カイルが身に覚えがないのは、当たり前だ。だって、ユノがいじめていると勝手に思っているだけなのだから。

それでもユノは、さらに勢いよく

「何言ってんのよ!せっかくルイが、カイルの体の心配してんのに、その態度はないでしょ!」

その言葉を聞いて、カイルは黙り込んでしまった。

「なんなの?!言いたいことがあるんだったら、言いなさいよ。そういう、うじうじした態度、大嫌いなの!!」

カイルは重い口を開き

「…ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ…。俺の体の事心配してくれる人なんて、そんなにいなかったからさっ…。」

カイルはその言葉を言いながら、悲しそうな顔をしていた。

「ご、ごめん。そんな…私、全然…知らなくて。えっと…、えっと…。」

「大丈夫。別に慣れてるから…。」

ニコッと悲しげな笑顔を浮かべていた。

私は、なんてことを言ってしまったんだろう…。

最低だ。カイルの気持ちを何も考えずに言ってしまった…。

 

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