青い空・・・白い雲・・・その輝きを分けてくれ~、のごとくまぁ天気の良いこと。
しかしその輝きを遮断するかのように俺の私室は暗い。
いや、明かりが暗いんじゃなくて。
雰囲気が暗い。
「だぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~!!!!・・・・どうしよマジで・・・。」
どん底にベッドに突っ伏して手足をばたつかせる。
事の発端はその日の朝にあるわけで・・・
眞魔国的脱走方法
「ウエディングドレスの採寸だぁ~~~~!!??」
朝もはよから父さんが~♪・・・じゃなくて、執務室からけたたましい声が上がる。
「そうだ。今日は眞魔国有数のデザイナーに新しい僕の服を頼んである。特注だからな、採寸に
来るそうだ。そのついでにお前の結婚用のうえでぃんぐどれすとやらも採寸してやろうではないか。」
俺はこれを聞いて顔色をみるみるうちに青くした。
「ちょとまて!?なにがウエディングドレスだ!?」
「お前が言っていたのだろう?向こうの世界ではそのうぇでぃんぐどれすとやらを着ると。」
「それを着るのは女性だ!!だいたい俺たちは男同士だろうが!?」
「せっかくお前の国の風習に合わせてやろうと言っているのに、わがままなやつだな。」
俺はその朝、いつものごとく執務室で書類に埋もれていた。
傍らにはギュンター、そして窓越しにはコンラッドがもたれかかっている。
そんななか、いきなりノックもせずにヴォルフラムが入ってきたかと思えばこの話題。
・・・・冗談じゃねぇ・・・。
俺は心底そう思った。
一応、この国での常識も身についてきた。
男同士の結婚もありだということも知っている。
だが、ウェディングドレスとなると話は別だっっ!!
ど~~~~~~~~~~考えてもこちらの風習ではない。
ヴォルフラムは一応あちらの世界のことを思ってそう提案したのだろうが、
地球で暮らして15年と幾月、その間にしみこんだ常識はそう簡単に拭い去れるものではない。
ウェディングドレスは女性が着る。
地球の常識だ。
「絶対嫌。」
こういうとき俺は頭ごなしに嫌々言うからいけないんだ。
冷静に対処しなければいけない。そう、相手の目をみて、冷静に冷静に・・・・。
「あきらめろユーリ。もう予約はしてある。」
「死んでも嫌。」
「死んだら着られないだろうが。」
「・・・・・・・・とにかく嫌。」
「わがままだぞ、ユーリ。」
「絶対・・・・・・・ってかそこ笑うなっっ!!コンラッド!!!!」
ビシィ!!という効果音と共に俺の指がコンラッドの方に向けられる。
コンラッドはそれはもう今にもうずくまりそうな勢いで腹を抱えて必死に笑いを抑えていた。
「・・っくっくっく・・・すみませんユーリ。いや、あまりにも冷静で真面目なのにその口から
出るのが「嫌嫌」ですから面白くてつい・・・。」
「面白くねぇ~~~~~!!!!!!!!!」
結局憤慨する俺。そうだよ、俺が冷静にしようとしたって、まわりの一癖も二癖も三癖も四癖
も・・・(以下続く)ある奴らに突っ込まないわけがないんだよ・・俺が・・・しくしく・・。
まぁいい。
要はその採寸現場に居合わせなければいいわけで、また町にでも脱走すれば問題ない。
俺はちらりとコンラッドを見た。
こちらの視線に気づいたコンラッドは腹を押さえながらも「はいはい、わかりましたよ。」とで
もいうように苦笑いをした。
町へ連れ出してくれるのはいつもコンラッド。
あとからヴォルフに「尻軽がー!!」といわれようが、グウェンの眉間のしわが増えようが、ギュンター
が「なぜ、私を差し置いていつコンラッドとーー!!」といわれようが、町に出るときでも、なんでも、
一緒にいて一番心地いいのは彼なのだから。
そう・・・たとえ・・・・
あまりにもツボにはまってうずくまって危うく笑死しそうになってたとしてもだっ!!
「お前笑いすぎだーーーーーーーー!!!」
「~~~~~~~っくっくっくっくっく・・・。」
どうやら相当ツボにはまったらしい。俺が真面目なのがそんなに面白いか・・・
あ~どうせ俺はいつも落ち着きがないですよ~だ。
が、次の瞬間この和やかなムードはヴォルフラムの何気ない一言で一気に吹き飛んでしまったのだ。
「あ、そうだ。ウェラー卿。お前は今日街のほうに出て欲しいということだ。」
ぴしり。
俺とコンラッドの周りの空気が一瞬にして凍った。
コンラッドの笑いもおさまる。
「・・・・・は?」
「は?じゃないだろう。兄上からの伝言だ。だいたいどうしてそんなに驚く?」
ヴォルフラムはユーリの様子に眉をしかめた。
「・・・・内容は?」
「それは兄上から直接聞け。今は執務室におられるから。」
俺は内心冷や汗だらだらだった。
だって、コンラッドがいないと城から連れ出してもらえないじゃんかぁーー!!
城から連れだしてもらえない→ヴォルフラムの餌食→ウェディングドレス決定。
一方コンラッドは先ほどの笑死寸前の様子から打って変わって、少し苦笑いをしたかと思うと、
「仕方ないですね。じゃ、ちゃっちゃと片付けてきましょうかねぇ。」
と言っていそいそと部屋を出て行った。
裏切り者~裏切り者~。
出掛けに俺はコンラッドを睨んでみたものの、コンラッドはにこりとほほ笑み返すだけだった。
口には出さなかったが、「大丈夫ですよ。」と言っているようにも見えた。
これはたぶん間違いない。
しかし・・・どちらの大丈夫かは俺の慮るとことではない。
果たして「ちゃんと連れ出しますから」の意味か、「ちゃんと似合いますからあきらめてください」
の意味か。その真意は俺にも分からない。
「さて・・・ユーリ。」
ぎくり。
内心半泣き状態で、俺はヴォルフラムをギギギ・・と振り向いた。
ヴォルフラムはそれはもう勝ち誇ったように腕を組んで勝利の笑みをうかべている。
「邪魔者もいなくなったことだし。覚悟を決めてもらうぞ。」
と言うわけで冒頭の嘆きに戻るわけだ。
傍らに控えていたギュンターはと言うと、
―陛下のドレスですか!?いや陛下ならばきっと、いや絶対似合うことでしょう!願わくばその
漆黒の髪と目にお似合いになる黒のお召し物で「あぁ、ギュンター、私の漆黒に似合うはその純
白の姿・・」などとおっしゃっていただけたのなら・・・ぶひゃ!!―
―ギュンター!!ユーリはぼ・く・の・婚約者だ!勝手に決め付けるな!!-―
などと言ってあてにならない。
コンラッドはと言うと、城下で起こっている強盗事件について調査に行ってしまったし、俺は刻
一刻と運命のときを自室で待つのみとなってしまった。
「・・・・・・・・あ~~~~~~~~~~~~・・・・。」
再びベッドの枕に頭をうずめる。が、しばらくして顔を上げた。
ここでこうしていたってどうせ無理やりドレス着させられるんだ。
どうせなら脱走してやろうじゃないか。
コンラッドがいなくても要は夜まで抜け出してればいいんだから。
・・・・・・あとから大目玉必至だけど。
俺はベッドから飛びおりた。
こうして、魔王陛下の脱走作戦が始まった。
作戦その1 まずは正面から
灯台下暗し。まずは正当法で行かなくては。
本日俺の部屋の前には兵士は2人。まずはこの2人から攻める。
かちゃり、と控えめに扉を開けるとひょこり、と顔を出した。見張りの兵士がそれに気づく。
「あ、陛下?御用ですか?」
「外出はお控えくださいね。一応ヴォルフラム様に止められてますので。」
「・・・・・・・」
俺はいったん部屋の外にでるとばたんと扉を閉めた。
・・・・我慢しろ、俺、これも脱走のため、脱走のため、脱走の・・・
「陛下?」
うつむいた俺に兵士は具合が悪いのかと近づいてきた。そして・・・
「あの・・・外いっちゃ・・だめ?」
「/////////!!!!????????」
対ギュンター対策、懇願の章。
使用法:目にうっすら涙をうかべて胸の前で手を組み、相手を上目づかいに見つめる。自分より
背の高いものに効果絶大。
・・・・・らしい。果たしてほんとに効くのかは定かではないが、ギュンターには効いたので
そのままつかっている。
一方の兵士たちは固まってしまっていた。それはもうメドゥサに睨まれて石化したように。
「あの・・・?」
さらに追い討ちをかける俺。固まってるからこの隙に逃げてもいいのかな?
「・・・・・お・・・・。」
「お?」
兵士の一人が搾り出すような声を上げた。・・お?
「・・・お、俺達はヴォルフラム様派なんですぅ~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!」
「お許しください陛下ぁぁぁぁ!!!!!!!」
「は!?」
バッタン。
・・・・・・・戻されてしまった。
なんだったんだ今のは?ヴォルフ派って・・・・なんの?
呆然と扉の前に立ち尽くす俺。
いずれにせよ作戦その1 失敗。
作戦その2 正面がだめなら窓から。
つーことで、この部屋1階じゃないけど窓からを脱走を試みようと思う。
幸いにこの部屋にはメイドの皆さんが頻繁に変えていただいてるシーツとその変え、バスルーム
のバスタオル、などなど。紐になりそうなものはいっぱいあった。
それを解けないように一個一個縛っていく。ほどけたらしゃれにならないし。
・・・・・ってか怪我しちゃえば早いのかな・・・いやいや、後からなに言われるかわかんない
からそれは怖い。
だいたい痛いの嫌。
「・・・・っし!できた!!」
ぎゅっ、と縛ってできたのは全長10メートルほどのシーツ、バスタオル、云々。
よくもまぁこれだけたくさんあったものだ。
魔王のベッドがべらぼうにでかいことが起因してるんだろな。たぶん。
「よっし!!ではさっそく!!」
俺はシーツの束を持ってベランダに急いだ。先端をベランダの手すりにくくりつける。
そして残りをベランダから放り投げる。シーツの先端は見事地上に届いた。
「よっしゃ!!」
ガッツポーズをした後、早速脱走に入る。小さいころ公園でよくすべり棒はしたものの、布での
体験は初めてだ。覚悟はしてたもののやっぱり下りにくい。
前にこういう布を下りるマッチョをテレビで見たことがある。シーツに手を絡め、それを軸に
するすると降りていた。俺の体はそこまでマッチョじゃないが、体を支えることはできるは
ず・・・!!
「・・・・いててててて!!!」
手をからめたところ、シーツが絡まって宙ぶらりん状態になってしまった。この方法はやっぱり
俺にはだめらしい。
あきらめて一歩一歩、いや一手一手すこしずつ降りていった。
「・・・・・っしゃ!地上!!」
怪我することもなく地上に降りることができた俺は、ともかく街にでるため馬小屋へ行こうとした。
が、
「あーーーーーー!!!陛下こんなところでなにやってるんですかーーーー!!!」
「げ!!」
背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。声の主はダカスコス。こっちを指差して固まっている。
「ダカスコス!?なんでこんなとこに!?」
「巡回中なんですよ!ヴォルフラム閣下が陛下を絶対城から出すなって、兵士に厳重警戒させて
るんです。」
そういいながら、ダカスコスは俺を部屋に戻そうとぐいぐい背中を押した。
なされるまま俺は再び城へ逆戻り。
「さぁさぁ戻りますよ陛下。ヴォルフラム閣下にしかられますよ。」
「・・・・ヴォルフラムのやつ、余計なことを・・・。」
ばたん。
結局部屋に逆戻りしてしまった。
作戦その2 失敗。
作戦その3 こうなったら最終手段。この部屋のひみつの隠し通路を探す!
魔王陛下の部屋ともなると、有事の際に外へ出られるように絶対秘密の隠し通路とかがあるはず!!
そう思い、俺は部屋のなかの壁を撤退的に探す。押してみたり、たたいてみたり、いろいろしてみた。
が、やってもやってもそんなものは見当たらない。
「・・・・あ~~~~~~~~!!!疲れた!!」
俺はあきらめてばふっとベッドにダイブした。
先ほどの脱走に使ったシーツはすでに戻してある。
「・・・・・どうすっかなぁ・・・。」
一応やれるだけはあがいてみた。これでなにもならないなら仕方がない。
あきらめてヴォルフの餌食になるかなぁ・・・・・。
そんなことを考えていた矢先だった。
「へ~いか、落ち込んでるとこ失礼しますよ~。」
がばっ!!
反射的に枕から顔を上げた。声はドアからでなく、ベランダからだった。
この陽気な口調、そして、ベランダから入れるのは・・・
「ヨザック!!」
お庭番ヨザック。ヨザックはベランダの手すりによしかかって腕を組み、こちらを面白そうに
見ていた。
「話は隊長から聞いてますよ~、面白いことするそうですねぇ。」
「面白くないっ!!まったく冗談じゃないっての!!」
そういいながら俺はベッドから飛び降りてヨザックにずんずん迫った。
「グリエも陛下のウェディングドレス姿見てみたいわぁ♪」
「絶対い・や・だ!!」
ヨザックはそんな俺の反応を楽しむように俺を見下ろしている。
「でもなんでこんなところから?」
いつもなら普通にドアから入ってくるのに。
そんな俺の心中を察したのかヨザックがいたずらっぽく笑った。
「だって、正面から入ったら兵士に用件いわなきゃなりませんからねぇ。」
「は?」
ヨザックはおもむろに懐を探ると、小さな笛らしきものを取り出した。
「隊長からですよ。隊長にこれを渡すよう頼まれたんです。」
「は?コンラッドから?なんで?なにこれ?」
首をかしげながらもおずおずとその笛を受け取る。
「まぁ使ってみれば分かりますよ。」
「?吹けばいいの?」
「笛の使用法が吹く以外になにがあるんですか。」
そりゃそうだ。
「それと陛下、シーツで脱走なんて古典的な方法絶対やめてくださいね。陛下に怪我があったら
俺が殺されてたんですから。」
「へ!?おま・・一体どこから・・・!!」
「ぜーんぶみてましたよ♪」
「!!!!????」
「や~、隊長にころあいを見計らってこれ渡せっていわれたんですけど、もうひやひやものですよ。
いつ怪我するか分かったものじゃないし。まぁ楽しく観察させていただきました。」
「・・・・おまえ、見てたんなら助けろよ。」
「見張りの兵士が結構いたんで大丈夫かと。それに落ちそうになったら一応助ける気でいました
よ?」
ヨザックは嬉々としてそのときの光景を思い出しているようで、こいつは完全にこの状況を楽し
んでいる、俺は心底そう思った。
「じゃ、そゆわけで、がんばってくださいね。」
「え?あ。」
気づいたときにはもうヨザックは地上に飛び降りていた。
俺が苦労して苦労して降りた地上にいとも簡単に・・・・やはり筋トレは必須だなと思った。
そんなことを考えてる間に、ヨザックの姿はあっという間に見えなくなる。
「・・・・・・・・・・・なんだったんだ?」
俺はヨザックから渡された笛をもう一度まじまじと見た。何の変哲もない、サッカーの試合に
よく使うホイッスルのような形をしている。
まぁ吹いてみなければ始まらないと思い、とりあえず俺は思いっきり息を吸い込んだ、そして
すかー。
「・・・・は!?」
笛からもれたのはなんとも情けない息のもれる音、もう一度、角度を変えて・・・・
すっかーー。
「・・・・・・・・・・。」
それはもう壮絶にすかした音がでた。ソプラノリコーダー、もとい魔笛の一部を吹いた時だって
いくらんでもこんな間抜けな音は出なかったぞ?
「・・・・結局これは、なんの笛なんだ?」
俺は首をかしげ、笛を目線の高さまであげてまじまじと見た。構造的にも音が出てもおかしく
ないのだが。
だが、その笛の効能が分かったのは次の瞬間だった。
カタカタカタカタ。
「・・・・は?」
骨格の鳴るような音が俺の頭上から聞こえてきた。おどろいて上空を見上げると・・・
「こ、コッヒー!?」
そこにいたのはおそらく血盟城の警備役であろう、骨格標本、骨飛族のコッヒー。コッヒーは
いつものように骨をカタカタいわせながら、俺の肩をぐゎしっっ!!!とつかんだ。
「へ!?へ!?えーーーーーーー!!!??」
俺の靴が地面を離れたかと思うと、あっという間に空中ライドの完成。俺の混乱はどこ吹く風、
その骨も体のどこに俺をいとも簡単に持ち上げる力があるのか知らないが、とにかく俺はなされ
るがままに空中を浮遊している。
「へ、陛下が骨飛族にさらわれたぞーーー!!」
「こらー骨飛族!!陛下をおろせーー!!」
地上をみると俺に気づいた兵士が大慌てしている。その様子は乱れた蟻の行列のようで・・
「・・・・・おもしろいかもしんない・・。」
しかし、このコッヒーは一体どこへ向かっているのか、あっという間に城の城壁を越えてしまった。
背後からは兵士の大慌てする声が聞こえてくる。
血盟城は切り立った丘の上に立っているため、城壁を越えると血盟城へ続く道以外、もう続く地面
はない。つまり地上はかなり下。そしてすぐ下には木がいくらか立っているくらいであとは街だ。
コッヒーはその林に向かってゆっくりと降りていった。
地上近くになると、下の様子もはっきりしてきて、木に下に人影が見えた。そこにいたのは、
「!コンラッド!?」
コンラッドはこちらの姿を確認したらしく、にこりと笑った。手には俺が持つのと同じ笛。
・・・・・・ますます意味が分からない。
コンラッドはノーカンティに乗ったままで、俺はそのノーカンティの上におろされた。
役目を終えたらしいコッヒーは(たぶん)嬉々としてその場を去って行く。
「はい、脱出成功。」
「は!?」
コンラッドは俺の服についていたほこり云々をぞんざいにはらうと、にこりと笑った。
「だから言ったでしょう?大丈夫だって。」
「?????」
俺は状況が全く飲み込めていない。
なぜ俺がコッヒーにさらわれたのか。
なぜコッヒーがコンラッドのところに俺を連れてきてくれたのか。
そもそもあの笛はなんなのか。
ってかお前、仕事はどうした仕事はっっ!!
「・・・・疑問いっぱいなぞいっぱいって感じですね。」
コンラッドは俺が混乱してるのをみながらくすくすと笑った。
「実はそのヨザックに渡してもらった笛。それは骨飛笛っていって、骨飛族の好む音波を出すん
です。それは非常に高い音なので俺たちの耳には聞こえませんけど、その音に惹かれた骨飛族が、
ユーリをここまで運んできたわけです。」
「・・・はぁ。」
「で、俺の持つもう一つの骨飛笛、これをころあいを見計らって吹くと笛の音に惹かれた骨飛族
が陛下のおまけつきでやってくるっていうものですよ。まぁしいて言えば眞魔国的脱走方法とで
もいいましょうか。ちなみに仕事はもう片付けてきましたよ。」
コンラッドはそれはそれはもう楽しそうに説明した。その様子はまるでいたづらの成功した子供
のようだ。
「・・・・・・ならせめてヨザックに説明くらい頼めよ。めちゃくちゃびっくりしたんだぞ。」
空中ライド体験は初めてこの世界に来たとき以来だ。あのときもびっくりしたけどこの体験は
早々なれるものじゃない。
「くすくす、すみませんでした。」
そういってコンラッドは俺の髪を優しくなでる。こんどは子供をあやすように。
・・・・ほんと、こいつって時々わけわかんねぇ。
「まぁ俺としてみればユーリのドレス見てみたくないことはなかったんだけど、ユーリ心底嫌が
ってたしね、どうせほっといても脱走すると思って。」
「・・・・よくわかってんじゃん。」
「ユーリのことですから。」
俺らは顔を見合わせるとくすくすと笑った。
「へ~い~か~~!!!」
ばたばたと、馬の駆ける音が聞こえてきた。どうやら騒ぎを見ていた兵士たちが俺を追ってきた
らしい。だがコンラッドはそんな様子にも馬を走らせようとはしない。
「・・・・ちょっとぐったりしててください。」
「へ?」
俺の返事を聞く前に、コンラッドは俺の頭を自身の胸に抱き寄せた。まったく意図が分からない。
とりあえず言われたとおりにぐったりしてみる。
「!?コンラート閣下!?どうしてこんなところへ?」
兵士の手綱を引く音がした。
「陛下が空中に浮いているのをみつけてね。下降してきたからあわてて馬を走らせたんだよ。」
自分で仕向けたくせに嘘八百だ。
「陛下は、大丈夫ですか?」
「さいわい怪我もないよ。ただかなりびっくりされたらしくてね。このとおり放心状態だ。」
なるほど、だからぐったりね。
「というわけで。」
コンラッドが手綱をひく。ノーカンティが方向転換した。
「陛下をそこらへん気分転換につれていってくるから、ヴォルフラムにもそう伝えておいて?」
「え、でも・・・」
「こんな状態の陛下を城に帰すわけにもいかないだろ?城に行けばギュンターやらヴォルフラム
やらが部屋に押しかけてきて休息どころじゃないからね。別に怪我してるわけでもないし。」
「た・・・・確かに・・・・。」
兵士はむむむとうなった。やっぱりヴォルフの命令を気にしているのだろうか。
「じゃ、そういうことだから、夕方には戻るよ。」
うなる兵士を尻目に、コンラッドはさっさと馬を走らせる。
「あ!」
兵士は一瞬止めようとしたが、その手は宙で止まってしまい、中途半端に伸ばされたてが残って
しまっていた。
「さて?兵士もまいたことですし、どこいきますか?」
兵士から離れて、コンラッドが頭上から声をかけた。
「コンラッドと一緒ならどこでも?」
俺たちは顔を見合わせていたずら成功とばかりに笑いあった。
☆ ☆
一方の血盟城には・・・・
「なにー!?ユーリが骨飛族に連れて行かれて、その先にウェラー卿がいて、ユーリをつれてい
ったぁ!?なぜそこでつれもどしてこなかった!?」
「いやその、陛下はかなり驚きの様子でして、閣下が気分転換に散歩させてくると・・・。」
「休むなら血盟城でもできるだろう!?」
「それは・・・・」
アナタやギュンター閣下がうるさくて陛下が休めないからですよ、といえず、しどろもどろする兵士がいた。
ちなみにその兵士はコンラート派だったらしい。