あさぎ学園…それは有名な名門学校だった。
それゆえに、規律も厳しかった。
そして、その学校に向かって急いで走ってきている人たちがいた。
そう。
もう少しで、本鈴が鳴るからだ。
その中には、昌紀と浩紀もいた…。
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン。
本鈴が鳴り終わると同時に、そっくりな2人が教室に駆けこんでくる。
「「はぁ、はぁ、はぁ…。」」
「昌紀がチャイムぎりぎりなんて、珍しいな。」
あまりに珍しいことなので、皆も昌紀たちの事を注目していた。
それもそのはずだった。
昌紀は、いつもかなり早い時間に学校に来て、生徒会の仕事などをしているのだ。
今まで、1度たりとも遅刻やぎりぎりに来たことなどなかった。
浩紀はいつもぎりぎりだったが…。
さらに驚いているのは、昌紀が浩紀と学校に来たことだった。
昌紀と浩紀の仲が悪いのは学校の暗黙の了解だった。
だから、昌紀に浩紀の事をいう馬鹿はいなかったし、逆に浩紀に昌紀の事を言う馬鹿もいなかった。
まぁ、別に仲が悪かったわけではなく、昌紀が浩紀を放そうとしていたのだが…。
荒い息を整え、昌紀は燈湖の問いに答える。
「…浩紀が寝坊したせいだ。」
「だって、遅くまで頑張ったから…。」
「何言ってるんだ。昌紀も同じ時間まで起きてたじゃないか。」
浩紀は反論してきたもっくんを半目でにらむ。
しかし、昌浩のときにも似たようなことが何度もあったので、燈湖は無視して話を進める。
「フッ。お前ら、わかりあったんだな。」
「おい、俺を無視するな!」
「うん…。今まで、心配掛けてごめんな。俺、皆とちゃんと話したよ。」
昌紀の言葉に燈湖は、良かったと笑う。
それが、昌紀にはとても嬉しかった。
しかし、その空気を壊すように浩紀がいきなりしゃべりだす。
「昌紀、どうしよう…次の数学の授業、当たる日だった!」
「俺もなんだけど…。昌紀、助けて!」
浩紀と燈湖が今思い出したように、昌紀に駆け寄る。
「はぁ…2人とも予習してなかったのか?」
「そんなことするの昌紀ぐらいだよ。」
「そうそう。」
「2人がやってないだけだろ。全く、世話がやけるな。」
そう言って、昌紀は笑う。
とても綺麗な笑みで…。
そんな顔は今まで1度も見たことがなかった。
それほど、昌紀は浩紀と仲良くすることができて嬉しいのだ。
幼い頃からずっとできなかったことだからこそ…。
その日の学校は最後まで大荒れだった。
いたるところで昌紀と浩紀が仲の良いシーンを見せるので、皆は2人が以外にブラコンだったのだと知った。
そして1番問題だったのは、今までいつも気を張っていた昌紀が浩紀たちと和解したことで、やわらかいオーラを出していたことだ。
これまでの昌紀はどんな時も気を張っていて、何か鬼気迫るものを感じていた。
それは張り詰めた糸のようで、少しでも何かあったら切れてしまいそうだった。
それが一気に甘いものを撒き散らしている。
それも、昌紀だけでなく浩紀も。
2人は小柄だが、顔はとてもきれいに造形されているから、まさに眼福だった。
それに燈湖も加わり、誰もが近寄れない神聖な空気を醸し出していた。
密に他のクラスの人たちが見に来るぐらいに…。
それは1ヶ月も続いたそうだ。